退院後の「夢のような」現象

手術をしてから9週間以上になるが、いまでも
手術前の感覚や癖が完全には抜けきらない。

はじめは「あんなことができる」「こんなこともできる」と
新鮮だった。
右足で立っても痛くない。いちいちものにつかまらなくても
歩けるし、思い立ったらすぐに移動できる。
外に出るとき、杖を忘れても平気、というか杖はいらない。

買い物は、カートなしで大丈夫。一度にまとめて買って、
手で提げて駐輪場に戻れる。荷物を自転車に移し替えてから
カートを返却に行く必要なし。
買い物をしておつりをもらったら、それを歩きながら財布に
入れることができる。両手を使う作業のどれもが、歩きながら
できるのだ。
荷物の重量を減らすために、財布に小銭が貯まらないように
工夫する必要もない。

食事の支度をするとき、汁物をこぼすことなく運べる。
しかも一つずつ運ぶのではなく、両手を使って二つずつ
運べる。「ものにつかまる手」「支える手」はいらない。
段差の前で、下りるとき、上るとき、先に出す足の右と左を
間違えても平気だ。一旦立ち止まって考えなくてもよい。

そんなこんなで、いろいろなことが手早く出来るようになった。

朝、目が覚めたらすぐに立ち上がることができる。
郵便物や新聞を取りに出たり、ゴミ出しだって余裕だ。
薬は飲まなくてよいのだから、飲み忘れの心配がない。

「いつか、奇跡が起きてこの痛みがなくなったら……」と
切望していたその奇跡が、いまは毎日起きている。
もともとは、それが当たり前のことだったのだが。
悪くなるときは徐々に、痛みの頻度、強さ、が増えた。
痛みから逃れる工夫をしながら、できないことも少しずつ
増えていった。それが一気になくなったのだから、
まるで魔法だと感じるのだ。