右腕の進化

3週間前のこと。
気がついたらうたた寝をしていた。右腕が痺れている。たまにあること
だが、今回のはどうも様子がおかしい。
肘から下がひどく痺れていて、押さえると痛い。手首から先はだらりと
下がったまま、自分の意思では全く動かない。指は、握ることは
できても伸ばせない。
調べたところ、どうも橈骨神経麻痺というもので、睡眠中になって
しまう例が多いようだ。

難病でなかったのは不幸中の幸いだが、この右手で何かと不便な日々が
始まった。お箸やペンが持てないのはもちろん、マウスやキーボードも
使えない。フォークやスプーンでさえ、思うように口元へ運べない。
髪を結わえるのも紐を結ぶのも無理。
バレエのポールドブラは、右手首から先がぶらんと下がったまま。
上腕の筋肉でアンオーに持って行けば、手首から先がごろんとひっくり
返ってみっともないこと甚だしい。右手がうまく動かないというだけで、
ピルエットなどの回転までやりにくくなったように感じる。

3週間経って、手首はなんとか治ってきた。指はまだ伸ばせない。
ただ、この三週間は希有で興味深い体験をしたといえる。
完治までにはまだまだ時間がかかりそうだが、一日一日、昨日よりは
ましになっているという実感がある。それは、不自由な手首や指を補う
動きの工夫に馴れていくのと、神経が届いていない筋肉の近隣の筋肉が、
フォローする度に筋力を増していくせいもあるだろう。

それとは別に、快復がきちんと順序立っているところが興味深い。
先ずは、手首の動く角度がすこしずつ増えていく。その次に、親指から
順に指が戻ってくる。赤ちゃんが成長していく過程のようでもあり、
人間の進化の過程を辿っているようでもある。
こうして、昨日できなかったことが、きょうはできるようになる。

失った機能を取り戻しているに過ぎないが、この歳になって成長や
進化の楽しさを味わえるとは。